学府長の挨拶

大学院総合理工学府教授 谷本 潤

大学院総合理工学府は、直結する学部を持たない、国内では数少ない理工系の学際独立大学院教育機関として1979年に設立されました。当時、高度な大学院教育には、理学と工学の分野境界を超えた学際理工学と先端研究との協働が必要であるとの時代思潮(Zeitgeist)が意識され始めた頃でした。このような経緯から、国のパイロットプロジェクトとして九州大学と東京工業大学に「総合理工学」を掲げる大学院が設置されたのです。現在の総合理工学府における重要な特徴の一つとして「ダイバーシティ」を挙げることが出来るでしょう。本学府は、全国各地の大学や高専で様々な分野の教育を受けた学生、企業からの社会人学生、世界各邦からの留学生が学んでいます。キャンパスは多様な専門分野、国籍、年齢層の大学院生が集う場となっています。

 

総合理工学府は「物質・環境・エネルギー」を大きな柱とした裾野の広い様々な教育・研究テーマを掲げて、日夜、大学院教育に取り組んでいます。急速な科学・技術の発展は物質的には豊かな社会をもたらしましたが、一方で、現在に生きる私たちには、環境・エネルギー・食料を含めた資源・安全などグローバルな諸課題がつきつけられています。そして、現下、産業応用と云う社会要請に後押しされて、データサイエンスやAIに代表されるような情報学のエッセンスが深化し、その展開があらゆる理工学分野で進んでいます。サイエンスとエンジニアリングを取り巻く環境は、このようにダイナミックな変容を遂げようとしているのです。今ほど、科学・技術を通じて、人々に、地域に、国に、人類社会に貢献しようという意気と情熱に富む次世代の皆さんの挑戦が待たれている時代はないと言えるでしょう。

錯綜した複雑な諸問題を解決するには、これまで私たちが取り組んできた理工学の垣根を取り払った「学際」理工学の発想が求められるのは無論のことです。さらに、研究成果を通じてグローバルな社会に対して有意な働きかけをするには、わたしたちは、すべからく社会科学との接続領域への洞察と共感、言語間を自在に行き来するコミュニケーション能力を涵養すべきでありましょう。その営みを通じて「総体的智」を自ら構築していくことが求められているのだと思います。

総合理工学府では、先端理工学研究に裏付けられた高度な大学院教育に取り組む中で、国際化大学院教育、高専と産業界連携を融合させた高度技術者教育に注力してきました。前者では、優秀な留学生の受け入れだけでなく、多様なダブルデグリープログラムなど大学院生を海外留学に派遣する試み、後者では、本学工学部融合基礎工学科で運用されている高専連携プログラムに接続する大学院教育の拡充に取り組んでいます。

19世紀の英国の政治家ディズレリは、「大学は光と自由と学問の場であらねばならない」(下院における演説)と喝破しました。多様な意見はあるでしょうが、大学とは社会に許容されたアジールとしての側面を今に至るまで保持している場だと思います。自由には責任が伴います。私たち総合理工学府は、勉学・研究に対して強い意欲を持つ人々に対して広く門戸が開かれています。

皆さんのチャレンジを待っています。

※大学院総合理工学府は、男女雇用機会均等法の精神に基づいて、性別、人種、国籍、年令等による差別を排除して、大学院入学試験を行い、また教職員の採用等も実施しています。