九州大学大学院総合理工学府 環境エネルギー工学専攻 博士後期課程2年 松尾叔美さん からのメッセージ

機械や技術を通して、人々の幸せや社会の発展に貢献したい

九州大学大学院総合理工学府

環境エネルギー工学専攻 博士後期課程2年 松尾叔美さん

九大広報85号, p.11-12 (H.25年1月発行) より転載

 

「CO2ヒートポンプ」の熱伝達の高性能化を目指す。

地球温暖化が進むなか、その対策として二酸化炭素(以下、CO2)排出量の削減や省エネルギー化が地球規模で推進されています。電化製品の開発においても重要なファクターの一つです。
今回ご紹介する松尾叔美さんは、地球温暖化係数が極めて低い自然冷媒・CO2を用いた「CO2ヒートポンプ給湯システム」の研究に携われています。CO2ヒートポンプ給湯システムは、大気熱を低温熱源として吸熱し湯を湧き上げるので、エネルギー変換効率が良く、従来型のガス給湯器等と比較し、50%以上のCO2排出量の削減が期待できます。なお、本システムはこの10年間で300万台以上普及しています。

しかし、深夜電力を利用し長時間かけて給湯を行うため、熱交換器内での給湯用水の流量が少なく、流れが層流になることから、熱伝達性能が低下してしまうという問題点がありました。

一方で、水を撹伴すると熱の伝わりやすさが向上されることがわかっており、ここに着目した松尾さんは、少ない流量でいかに効率よく攪拌して、伝熱性能を高めるかという研究に取り組んでいらっしゃいます。

 

 

 

CO2の代わりに水を使った新しい実験方法も提案

また、ヒートポンプ給湯機は、圧力が高いため安全性や作業性に問題がありました。さらに、耐圧を考慮しなければならないため実験装置も高額になります。このような背景から松尾さんは、高圧であるCO2の代わりに水をCO2模擬流体として使う新しい実験方法も提案しました。
「研究にあたっては、実験装置から自分で作っていますので、専門分野だけでなく、すべての測定機器に精通しておかなければなりません。また、配管も自分で設計しているので、機械設計から材料、流体工学まで幅広い知識が必要になり、最初は大変でした」とのことです。

現在は、CO2をCO2模擬流体の水で代用した新しい実験方法により伝熱促進効果を調査するための実験を進めると同時に、提案した新しい実験方法の有用性を確認する実験も実施しているとのこと。その成果は、学会で優秀講演賞を受賞するなど高い評価を受けています。

早く専門知識を学びたい。思いを貫き工業高校へ。

松尾さんは、女性では珍しく工業高校のご出身です。
「父が九大機械工学科出身でエンジニアだったので、お風呂の栓を抜く時の水の動きで流体力学の説明をしてくれたりしていました。常に好奇心を育める家庭環境だったんです。それで、少しでも早く専門の勉強をしたいと思うようになり、高校は周囲の反対を押し切って工業高校へ進学しました」
その後、大学は佐賀大学の理工学部に進学。大学院から、熱工学及び冷凍・空調分野で著名な本学の小山繁教授に指導を受けています。

全力で研究を続けていれば、少しずつ光が見えてくる。

「あらゆる分野の生産過程において、何らかの機械が使用されていて、人々の生活を支えています。それは、ものづくりに携わりたい人にとって魅力的なことです。誰かと張り合うのではなく、自分の力を出し切ることだけ考えて前に進めば、きっと光が見えてくると信じています」と松尾さん。今後も社会に貢献できる成果が期待されます。

* 層流:流体の隣りあう部分がまざりあうことなく、流線が規則正しい形を保つ流れのこと。

 

指導教員より

九州大学大学院総合理工学研究院

エネルギー物質科学部門 小山繁 教授

小山先生の研究室はコチラ

将来は、ヒートポンプ技術開発の第一線で活躍してほしい。

良く体を動かし、頭を使い、困難な課題に取り組んでいます。実験的研究を推進する上では、どのような実験装置を作るかと、実験結果の整理・分析が研究の成否を左右しますが、松尾さんは自らアイデアを出し試作と失敗を繰り返しながら、これまでに誰も考えなかったユニークな実験装置を製作しました。実験結果の分析においても、仮説に基づき工学的な有用性を得ています。機械工学の分野は、あらゆる技術の発展にとって極めて重要な基盤技術の一つです。また、松尾さんが取り組んでいる伝熱研究は、今後エネルギー環境問題を克服する上で、重要性を増すヒートポンプ技術の進展に貢献できる課題です。女性では珍しい工業高校から大学、大学院に進むなかで、彼女は自分の意志を貫く実行力を身につけてきたようです。将来は日本を代表する研究者になってほしいですね。また、世界のヒートポンプ技術開発の第一線で活躍してほしいと思います。