九州大学大学院総合理工学府 Green Asia Program 修了, 博士(工学) 佐藤 幹さん のインタビュー

研究は宝探しみたいなもの、それが存分にできるのが博士課程

九州大学大学院総合理工学府

Green Asia Program 修了, 博士(工学) 佐藤 幹さん

2017年 3月29日 インタビュー

 

  • 2008年4月 九州大学工学部エネルギー科学科入学
  • 2012年4月 九州大学大学院総合理工学府環境エネルギー工学専攻入学
  • 2012年12月 修士博士一貫コース Green Asia Program編入
  • 2017年3月 九州大学 Green Asia Program修了, 博士(工学)
  • 2017年4月 三菱電機 入社

    聞き手:
    萩島理(九州大学大学院総合理工学研究院教授)

「研究をもっと続けたい、それがシンプルな博士進学の動機でした

Q. 博士課程に行こうと思ったのはいつでしたか?

A. 学部2、3年の頃から、沢山の科目の中で特に流体力学が好きでした。でも、4年生の時点までは殆ど博士課程進学のことは考えた事はありませんでした。
 修士1年になって、徐々に研究の中身が理解できるようになってきて、自分の研究テーマは研究室としてはノウハウの蓄積が少ない測定装置・測定手法を使うもので、納得いく答が出るのには結構時間が掛かりそうだけど、それで結果が出ればきっと面白い、と思うようになりました。今の研究もう少しじっくり続けたい、それが博士に進もうと思った理由ですね。

修士修了で就職した同期を見て焦ったことも

Q. 総理工の環境エネルギー工学専攻では、修士課程修了者の就職状況は非常に良いのですが、多くの人が就職を選ぶ中で敢えて博士に進学することに迷いはなかったですか?

A. あまり無かったです。自分がM1の段階で、総理工では修士博士一貫のリーディング大学院Green Asia Programが始まって、修士博士の5年間の生活費や学費をカバーできる奨学金が支給される事も後押ししたと思います。実際には、D1からはJSPSのフェローシップに採択されたので、Green Asiaの奨学金をもらったのは修士の間だけでしたけど。

博士に進学した1年目は、かなり焦りや後悔も感じました。卒業した同期が、社会人になって休暇で研究室に遊びに来るんですが、みんな当然ですが社会人として給料をもらって、世界がすごく広がっているように見えた。自分だけ研究室に居て環境が変わらず、取り残されているようで焦りました。

博士課程修了後の進路


Q. 博士進学を決めた時点では、その先の進路については
イメージはありましたか?

A. その段階では、企業に就職するか、大学の教員の道を目指すのか、

あまりはっきり決めていませんでした。

 

 

Q. 無事、博士号をとって、来月からは企業で働くことになってますね。

A. 三菱電機で空調機製造に関連する研究所で勤務する予定です。現場から上がってくる問題を解決する仕事と、個人で目標を決めてやる独自研究の二種類の仕事があると聞いていますが、その比率はまだ分かりません、でも、学生のときに比べれば、ずっとモノづくりに近い、応用的な研究になります。

 

Q. 進路として企業を選んだのはなぜでしょう?

A. 今でもアカデミックで研究教育の仕事をすることには惹かれる気持ちもあります。でも、自分の性格をよく分析してみて、やはり自分はいろんな専門分野、職種の人と仕事をして、色んな経験をしてみたい、そのためには大学より企業の方が向いているんじゃないか、と思いました。
 勿論、ずっと先のことはわかりませんが、好奇心をもって色んな事にチャレンジしたいです。

博士課程学生の会社選びとの就職活動

Q. 佐藤さんの専門は風工学・都市気候学分野で、研究テーマは都市空間、特に建物周辺の風の流れ、乱流に関するものですよね。そうした自分の専門がある中で、どんな方針で会社を選んだのでしょうか?

A. 自分の研究はアプリケーションとして考えると都市居住者の生活の質向上を目指した都市計画など行政の領分になるのかもしれません。企業のビジネスとは縁遠いです。ですから、博士の研究をそのまま続けられる企業、という選択肢は最初から考えませんでしたが、大枠として流体力学に関わる研究ができるところを考えました。

 一口に流体といっても、色んな流れがあって、装置の中のパイプの流れだったり、部屋の中の空気の流れだったり、屋外空間の突風や大気の上空1000mを超える厚みの対流混合層まで、現象は様々です。でも、そうした多様な現象がNavie- Stokes方程式と連続の式という見た目はシンプルな方程式で記述されている、という点に自分はとても惹かれます。

 そんな訳で、流体に関連しているモノづくり、という事から空調機の製造開発メーカーを候補にしました。

 

Q. 会社へのアプローチの方法など、博士の就職活動は修士とは違いますか?

A. 私の場合は全く同じでした。エントリーシートを出して、技術面接を1回受けて、その後に最終面接という流れです。流体に関わる研究開発、という方向性が決まっていて目移りしなかったので、就職活動は実質1週間程度でほぼ終わりました。技術面接の内容は、修士博士の間に何度も経験している学会や中間発表などでの研究のプレゼンと似ていたので、特に準備に困ったりすることもありませんでした。

 

博士課程で研究することの魅力

Q. 佐藤さんは研究の面白さってどんなところにあると思ってますか?

A. 自分は少数派だと思うのですが、実は、本当の研究の面白さが分かるようになったのは、博士に進学してからです。M1の9~12月はイアエステの奨学金でポルトガルの大学に留学しましたし、Green Asia Programのカリキュラムでは通常の1.5倍の単位が必要で、たくさんの授業や学外の研究所でのインターンシップ、2つの研究室で各3か月ラボラトリーローテーションがあったので、あっという間に修士の2年間は終わってしまいました。

 博士の3年間は、答がまだ分かっていない問題にじっくり立ち向かわないといけない、まさに研究にどっぷり漬かる事ができて、それがつくづく贅沢で面白い時間だ、と思いました。

 

Q. 自分の研究についてはどうですか?

A. 振り返れば、もう少しできたんじゃないか、もうちょっと成果出せたんじゃないか、という反省が沢山あります。その反面、これまでによく分かっていなかった問題を自分なりに筋道をたてて整理して、論理的に整理して、解を導くという研究のプロセスの面白さは存分に味わえたと思います。それによって、目に見えないスキルが身についたような気がします。それは、きっと今後の企業で仕事をする際にも大切な資産になると思います。

博士3年は自由に研究できる貴重な時間、宝探しみたいなもの

Q. 修士や学部の後輩たちに博士課程への進学をお薦めできますか?

A. 経済的な面もあるので、無責任な事は言えないですが、博士の3年間は、コストや顧客の要望やクレーム、納期といった企業の研究開発にあるような外的な制約から完全に自由に学問できる、だから本当に面白いよ、と言いたいです。

 勿論、学位取得のために成果を上げなきゃいけない、Journal paperも書かなきゃいけない、という事はあるのですけど、それは純粋に自分の研究を進めるためには必要な悪くないプレッシャーだと思います。

 

A. 博士課程で研究をやるというのは、宝探しみたいなものだと思います。普段は地面を掘って、なかなか見つからないなあ、きついなあ、とか思っているんですが、そうして掘っている間に何か出てきて、それが程度の差はあれ、ちゃんと人を説得できて、確かに論理的に考えてこれは絶対正しいって言えるようなものが見つかる、っていうのが一番自分は嬉しいです。

 普段は結構苦しくて大変な事もあるけれど、どこに何が埋まっているか分からないものを掘り返して、探し回って、その結果、何かを見つけられた時の喜びというのは、他ではなかなか得られないように思います。

 自分は小説など本を読んだり、文章を書いたりするのも好きなので、自分が見付けたものを素材にして文章を書いて、それが論文としてきれいに仕上がる、というのも嬉しいですね。それを人に伝えるという事もあるけれど、自己満足という事もあります。それができた3年間でした。

 これまでの研究テーマからは離れて企業に就職しますが、博士の3年間の宝探しで身に着けた目に見えないスキルを活かしていきたいと思います。

 

指導教員より

九州大学大学院総合理工学研究院 萩島理教授

萩島先生の研究室はコチラ

 

佐藤幹さんのテーマは、研究室としてはまだ十分なノウハウの蓄積の無い新しい計測手法を使ったものでしたが、卒論生の時から博士課程まで、コツコツと取り組んでくれました。結果がなかなか出ないとき、時としてプロセスの各部の粗に目をつぶって結論へと一足飛びに行きたくなるものです。そこをぐっと我慢して、最後まで誠実に研究を完遂してくれたと思います。その試行錯誤は、佐藤さん本人だけでなく、私たち教員、後輩たちにとっても大きな資産です。

企業での研究開発の仕事でも、是非この経験を生かして羽ばたいて欲しいですね。