博士号をとろう

研究は大学教育一番の醍醐味

 昨今、全国的に理工系の大学では、修士課程進学者は多く、九大の工学部や理学部では約8割の人が修 士課程に進みます。

何故、みな修士課程に進学するのでしょうか?

他の人が行くから、就職に有利な気がするから、そんな風に考える人がいる一方で、卒論研究が面白い からもう少しそれを続けてみたい、もっと専門的な知識を学んで、それを生かせる面白い仕事をしたい 、ものづくりの最先端で研究をしたい、という人も多いのではないでしょうか?

では博士課程はどうでしょうか?

 学部からは8割の人が修士に進学しますが、その先、博士課程に進学する割合は近年1割を下回っています。本学府も同様です。私たちにとって、これはとても残念な、勿体ない事です。
なぜなら、大学で学ぶ事の一番の面白さ、醍醐味が凝縮されているのが博士課程だからです。

 理工系の研究室では多くの場合、学部や修士課程の学生は指導教員の先生からのsuggestionや上級生のテーマの引き継ぎ、といった形でまずは研究を始めます。大雑把に与えられた手掛かりに従って、実験し、観察し、シミュレーションして、様々な試行錯誤を経て、誰も知らない新しい現象を発見したり、 それを説明する理論やモデルを打ち立てたりする。そんな営為が研究です。

 

既に昔の人が明らかにした理論がまとめられた教科書を勉強してテストを受ける、という高校生や学部 3年までの学校の勉強とは全く質の違う体験です。 誰も答を知らない問題に取り組む、もしかしたらその問題は解すらないのかもしれない、そんな荒野でのチャレンジこそが研究です。

こんなワクワクする知的体験はそうそう他では得られません。 修士課程の2年は、この刺激的な”研究” 体験の導入部なのです。

 


 

修士から博士へ Problem-solvingからProblem-findingへ

 博士課程になると、指導教員の先生から示されるヒントを頼りにした研究から、徐々に、自分の専門分 野のどこに取り組むべき課題、自分が取り組む事ができる課題があるのか、どんなアプローチならそれ に対する解決が可能なのかを考え、実際に試行しいく事になります。勿論、そのためには自身の研究分 野やそれに関連する周辺分野についての深い理解が必要になりますし、日々の実験やシミュレーション の結果を適切に判断するための研ぎ澄まされた判断力も重要です。積極的に周囲の人、研究者のコミュ ニティで自分の成果を発信し、情報交換する事もまた時に研究にインスピレーションを与えてくれます 。
自分の創意工夫の中で、何かを発見し、pictureを描くこと、それにより当該分野の大きなブレークスル ーをもたらす事ができれば、最先端のものづくりに大きな貢献ができれば、こんな嬉しい事はありません。

九大総理工では、最先端の研究を学生と教員が共に実施する事を通じて、以下のような博士人材像を世 に送り出す事を目指しています。

  • ✔ 物質・エネルギー・環境など学生各人の主専門の高度な知識
  • ✔ 専門分野の周辺融合分野などの知識を含む俯瞰的・大局的視野
  • ✔ 能動的・自律的に課題を発券し解決する能力(研究力)
  • ✔ 産業界やアカデミックで幅広くグローバルに活躍できる語学力・プレゼン
      ・コミュニケーション能力

博士号の学位は、こうしたcreativeな研究活動を自律的に行うための基礎トレーニングを済ませた、という証のようなものです。

2017年3月 無事に博士号を授与された九大総理工 Green Asia Programの一期生

 


 

世界の理工学研究の最先端を走る

九州大学は旧七帝大の一角として、恵まれた研究教育インフラの中で、世界的にも活発に先端研究を推進しており、その成果は最新の大学世界ランキングにも現れています。

  • ✔ 国内ランキング7 位, 世界ランキング79位 (Reuters 2016)
  • ✔ アジアランキング32位, 世界ランキング135位 (Qs Rankings 2016)
  • ✔ エネルギー科学・工学部門でアジア首位, 世界ランキング26位(Academic Ranking of World University
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Highly Cited Researchers (高被引用論文著者)
応用力学研究所 竹村俊彦教授 (大気海洋環境システム学専攻)
トムソン・ライター社による分析により、各研究分野においてトップ1%の被引用数を持つインパクトの非常に高い論文を一定数以上発表している研究者が、”世界で影響力を持つ科学者”として選ばれます。
竹村教授はGeosciences(地球科学)分野で2014年から3年連続選出されています。日本に在籍する研究者で地球科学分野における2016年の選出は竹村教授が唯一です。

こうした活気ある環境の中、本学府の博士課程学生は様々な研究分野で活躍しています。


 

まだまだ少ない日本の博士号取得者

実は、日本の博士号取得者を他の主要国と比較すると、圧倒的に少ないのが現状です。主要国における自然科学系の博士号取得者数の推移を見ると、特に中国などアジア圏の増加が目に付きますが、日本の博士号取得者数は伸び悩んでいます。

図 主要国における自然科学系の博士号取得者数の推移(保健分野含まず)

NSF “Science and Engineering Indicators 2010”を基に文部科学省作成, H.22年版科学技術白書より転載

 

企業の研究者に占める博士号取得者の割合でも、日本は他国に比べ圧倒的に少ないのが現状です。

図 企業研究者に占める博士号取得者の割合

日本は総務省統計局「H.25年科学技術研究調査」, 米国は”NSF SESTA”, その他の国は”OECD Science, Technology, and R&D Statistics” のデータを元に文科省が作成, 文科省平成26年版科学技術白書より転載

 

従来、日本では博士号は大学の教職に就く際に必須のライセンスという認識はあっても、企業で働くのであれば社内教育で十分、という人材・技術の自前主義が主流であったと聞きます。

しかし、グローバリゼーションにより、企業間の取引や買収や合併などが国境を越えて常に行われている現代において、企業で働く研究者にとってもドクターが無ければ技術者として信用されないような場面が増えつつあります。

こうした背景からか、民間企業の博士号保有者へのニーズは高まりつつあるようで、その数は、過去7年間で3割程度(約5,000人)増加しています。

図 企業等における博士号保有者の人数及び研究者に占める博士号保有者の割合

注:本図の「博士号保有者」には、民間企業に就職した後に博士号を取得した者も含まれる。
総務省統計局「科学技術研究調査報告」を基に文部科学省作成, H.22年版科学技術白書 より転載