学府長からのメッセージ
刻下の地球環境問題より,再生可能エネルギーへの移行による化石エネルギー使用の大幅削減(究極には 使用の停止),地球温暖化の原因となる人為的な温暖化ガスの大幅削減(こちらも究極には排出の停止)に 向けた大局的趨勢は疑いよう無く,この点で,総合理工学分野に関わる学術分野ならびに産業分野が無 為無策であれば,関連分野の産業規模から推察して我が国経済のシュリンクは不可避となりましょう. しかしながら,再生可能・持続可能エネルギーへの移行とネット・ゼロエネルギー化は,社会の安全と 利便性を犠牲にして行う事は許されず,持続的発展の為には絶えまない安全と利便性の追求が社会発展 の基本でもあります.
この相反する課題の解は,恐らく,持続可能性の観点でエネルギー使用に上限(キャップ)を設定した上 で,無形財,すなわちサービスを増大させることでしか得られないことは明らかです.我が国の産業・学 術分野が更なる発展を遂げ,低炭素社会実現のキープレイヤーとなるためには,まずこの社会認識を前 提条件として共有した上で,具体的な必達目標を旗幟鮮明にし,バックキャスティングによる戦略・兵 站を提示し,努力を積み重ねることが必須です.
総合理工学府は,学部組織を持たない学際大学院として発足し,九州大学の中でも先端的かつ環学的な 取り組みを行う大学院組織としてユニークな存在であり続けてきました.2021年の学部学科再編に より,工学部に新設された融合基礎工学科の学部学生が2年次より筑紫キャンパスに配属されることに なり,更に高専連携コースの学生(高専専攻科からの編入学生)も加わることで,学府の伝統は継承しな がらも学部教育との連携を深め,多様性と学際性を増しながら更なる発展を目指しています.
総合理工学府は「物質・環境・エネルギー」を大きな柱とした裾野の広い様々な教育・研究テーマを掲 げて,大学院教育に取り組んでいます.広く国内外から学生を受け入れておりますが,特に博士課程の 留学生比率は6割を超えており,国際性を増しています.総合理工学府のある九州大学筑紫キャンパス は,応用力学研究所ならびに先導物質化学研究所の先端研究施設に加え,多様な専門分野,国籍,年齢 層の大学院生が集うメルティングポットとなっています.この学際的な雰囲気のもとで,研究教育の国 際化ならびにグローバル化を強力に推進し,高度科学技術を習得した国際性豊かな修士,博士を育成し ,そして国際社会へ送り出す,これが,総合理工学府の大切なミッションです.
総合理工学府は,勉学・研究に対して強い意欲を持つ人々に対して広く門戸が開かれています. 皆さんのチャレンジをお待ちしています.
九州大学大学院 総合理工学府長
伊藤一秀